から右告訴及《みぎこくそにおよび》候也《そうろうなり》という書面をお出しなさい。届ではない告訴です。名宛《なあて》はない方がいい」
「品物は一々かくんですか」
「ええ羽織何点代価いくらと云う風に表にして出すんです。――いや這入《はい》って見たって仕方がない。盗《と》られたあとなんだから」と平気な事を云って帰って行く。
 主人は筆硯《ふですずり》を座敷の真中へ持ち出して、細君を前に呼びつけて「これから盗難告訴をかくから、盗られたものを一々云え。さあ云え」とあたかも喧嘩でもするような口調で云う。
「あら厭《いや》だ、さあ云えだなんて、そんな権柄《けんぺい》ずくで誰が云うもんですか」と細帯を巻き付けたままどっかと腰を据《す》える。
「その風はなんだ、宿場女郎の出来損《できそこな》い見たようだ。なぜ帯をしめて出て来ん」
「これで悪るければ買って下さい。宿場女郎でも何でも盗られりゃ仕方がないじゃありませんか」
「帯までとって行ったのか、苛《ひど》い奴だ。それじゃ帯から書き付けてやろう。帯はどんな帯だ」
「どんな帯って、そんなに何本もあるもんですか、黒繻子《くろじゅす》と縮緬《ちりめん》の腹合せの
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