いたが、主人の頭の先に「朝日」の袋があるのを見付けて、ちょっと袂《たもと》へ投げ込む。またその袋の中から一本出してランプに翳《かざ》して火を点《つ》ける。旨《う》まそうに深く吸って吐き出した煙りが、乳色のホヤを繞《めぐ》ってまだ消えぬ間《ま》に、陰士の足音は椽側《えんがわ》を次第に遠のいて聞えなくなった。主人夫婦は依然として熟睡している。人間も存外|迂濶《うかつ》なものである。
吾輩はまた暫時《ざんじ》の休養を要する。のべつに喋舌《しゃべ》っていては身体が続かない。ぐっと寝込んで眼が覚《さ》めた時は弥生《やよい》の空が朗らかに晴れ渡って勝手口に主人夫婦が巡査と対談をしている時であった。
「それでは、ここから這入《はい》って寝室の方へ廻ったんですな。あなた方は睡眠中で一向《いっこう》気がつかなかったのですな」
「ええ」と主人は少し極《きま》りがわるそうである。
「それで盗難に罹《かか》ったのは何時《なんじ》頃ですか」と巡査は無理な事を聞く。時間が分るくらいなら何《な》にも盗まれる必要はないのである。それに気が付かぬ主人夫婦はしきりにこの質問に対して相談をしている。
「何時頃かな」
「そ
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