識」に傍点]に対してのみは何等の褒美《ほうび》も与えたと云う記録がなかったので、今日《こんにち》まで実は大《おおい》に怪しんでいたところさ」
「なるほど少し妙だね」と鈴木君はどこまでも調子を合せる。
「しかるについ両三日前に至って、美学研究の際ふとその理由を発見したので多年の疑団《ぎだん》は一度に氷解。漆桶《しっつう》を抜くがごとく痛快なる悟りを得て歓天喜地《かんてんきち》の至境に達したのさ」
あまり迷亭の言葉が仰山《ぎょうさん》なので、さすが御上手者《おじょうずもの》の鈴木君も、こりゃ手に合わないと云う顔付をする。主人はまた始まったなと云わぬばかりに、象牙《ぞうげ》の箸《はし》で菓子皿の縁《ふち》をかんかん叩いて俯《う》つ向《む》いている。迷亭だけは大得意で弁じつづける。
「そこでこの矛盾なる現象の説明を明記して、暗黒の淵《ふち》から吾人の疑を千載《せんざい》の下《もと》に救い出してくれた者は誰だと思う。学問あって以来の学者と称せらるる彼《か》の希臘《ギリシャ》の哲人、逍遥派《しょうようは》の元祖アリストートルその人である。彼の説明に曰《いわ》くさ――おい菓子皿などを叩かんで謹聴し
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