ろう、大方|鼻恋《はなごい》くらいなところだぜ」
「鼻恋でも寒月が貰えばいいが」
「貰えばいいがって、君は先日大反対だったじゃないか。今日はいやに軟化しているぜ」
「軟化はせん、僕は決して軟化はせんしかし……」
「しかしどうか[#「どうか」に傍点]したんだろう。ねえ鈴木、君も実業家の末席《ばっせき》を汚《けが》す一人だから参考のために言って聞かせるがね。あの金田某なる者さ。あの某なるものの息女などを天下の秀才水島寒月の令夫人と崇《あが》め奉るのは、少々|提灯《ちょうちん》と釣鐘と云う次第で、我々|朋友《ほうゆう》たる者が冷々《れいれい》黙過する訳に行かん事だと思うんだが、たとい実業家の君でもこれには異存はあるまい」
「相変らず元気がいいね。結構だ。君は十年前と容子《ようす》が少しも変っていないからえらい」と鈴木君は柳に受けて、胡麻化《ごまか》そうとする。
「えらいと褒《ほ》めるなら、もう少し博学なところを御目にかけるがね。昔《むか》しの希臘人《ギリシャじん》は非常に体育を重んじたものであらゆる競技に貴重なる懸賞を出して百方奨励の策を講じたものだ。しかるに不思議な事には学者の智識[#「智
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