声で話している。その声が鼻子とよく似ているところをもって推《お》すと、これが即ち当家の令嬢寒月君をして未遂入水《みすいじゅすい》をあえてせしめたる代物《しろもの》だろう。惜哉《おしいかな》障子越しで玉の御姿《おんすがた》を拝する事が出来ない。従って顔の真中に大きな鼻を祭り込んでいるか、どうだか受合えない。しかし談話の模様から鼻息の荒いところなどを綜合《そうごう》して考えて見ると、満更《まんざら》人の注意を惹《ひ》かぬ獅鼻《ししばな》とも思われない。女はしきりに喋舌《しゃべ》っているが相手の声が少しも聞えないのは、噂《うわさ》にきく電話というものであろう。「御前は大和《やまと》かい。明日《あした》ね、行くんだからね、鶉《うずら》の三を取っておいておくれ、いいかえ――分ったかい――なに分らない? おやいやだ。鶉の三を取るんだよ。――なんだって、――取れない? 取れないはずはない、とるんだよ――へへへへへ御冗談《ごじょうだん》をだって――何が御冗談なんだよ――いやに人をおひゃらかすよ。全体御前は誰だい。長吉《ちょうきち》だ? 長吉なんぞじゃ訳が分らない。お神さんに電話口へ出ろって御云いな――
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