のものの、迷惑になって困りますと云ったが、大方《おおかた》あいつの事だぜ」「あいつに極《きま》っていまさあ、そんな事を云いそうな面構《つらがま》えですよ、いやに髭《ひげ》なんか生《は》やして」「怪《け》しからん奴だ」髭を生やして怪しからなければ猫などは一疋だって怪しかりようがない。「それにあの迷亭とか、へべれけとか云う奴は、まあ何てえ、頓狂な跳返《はねっかえ》りなんでしょう、伯父の牧山男爵だなんて、あんな顔に男爵の伯父なんざ、有るはずがないと思ったんですもの」「御前がどこの馬の骨だか分らんものの言う事を真《ま》に受けるのも悪い」「悪いって、あんまり人を馬鹿にし過ぎるじゃありませんか」と大変残念そうである。不思議な事には寒月君の事は一言半句《いちごんはんく》も出ない。吾輩の忍んで来る前に評判記はすんだものか、またはすでに落第と事が極《きま》って念頭にないものか、その辺《へん》は懸念《けねん》もあるが仕方がない。しばらく佇《たたず》んでいると廊下を隔てて向うの座敷でベルの音がする。そらあすこにも何か事がある。後《おく》れぬ先に、とその方角へ歩を向ける。
 来て見ると女が独《ひと》りで何か大
前へ 次へ
全750ページ中188ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング