左も顧みず右も眺めず、只わが前に置かれたる皿のみを見詰めて済す折もあった。皿の上に堆《うずた》かき肉塊の残らぬ事は少ない。武士の命を三|分《ぶん》して女と酒と軍《いく》さがその三カ一を占むるならば、ウィリアムの命の三|分《ぶ》二は既に死んだ様なものである。残る三分一は? 軍《いくさ》はまだない。
ウィリアムは身の丈《たけ》六尺一寸、痩《や》せてはいるが満身の筋肉を骨格の上へたたき付けて出来上った様な男である。四年前の戦《たたかい》に甲も棄て、鎧も脱いで丸裸になって城壁の裏《うち》に仕掛けたる、カタパルトを彎《ひ》いた事がある。戦が済んでからその有様を見ていた者がウィリアムの腕には鉄の瘤《こぶ》が出るといった。彼の眼と髪は石炭の様に黒い。その髪は渦を巻いて、彼が頭《かしら》を掉《ふ》る度にきらきらする。彼の眼《まなこ》の奥には又一双の眼《まなこ》があって重なり合っている様な光りと深さとが見える。酒の味に命を失い、未了の恋に命を失いつつある彼は来《きた》るべき戦場にもまた命を失うだろうか。彼は馬に乗って終日終夜野を行くに疲れた事のない男である。彼は一片の麺麭《パン》も食わず一滴の水さえ飲
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