幻影の盾
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)縹緲《ひょうびょう》たる

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)吾|頚《くび》をも

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)円卓の勇士[#「円卓の勇士」に白丸傍点]を
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 一心不乱と云う事を、目に見えぬ怪力をかり、縹緲《ひょうびょう》たる背景の前に写し出そうと考えて、この趣向を得た。これを日本の物語に書き下《おろ》さなかったのはこの趣向とわが国の風俗が調和すまいと思うたからである。浅学にて古代騎士の状況に通ぜず、従って叙事妥当を欠き、描景真相を失する所が多かろう、読者の誨《おしえ》を待つ。

 遠き世の物語である。バロンと名乗るものの城を構え濠《ほり》を環《めぐ》らして、人を屠《ほふ》り天に驕《おご》れる昔に帰れ。今代《きんだい》の話しではない。
 何時《いつ》の頃とも知らぬ。只アーサー大王《たいおう》の御代とのみ言い伝えたる世に、ブレトンの一士人がブレトンの一女子に懸想《けそう》した事がある。その頃の恋はあだには出来ぬ。思う人の唇《くちびる》に燃ゆる
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