。その顔は長《とこ》しえに天と地と中間にある人とを呪《のろ》う。右から盾を見るときは右に向って呪い、左から盾を覗《のぞ》くときは左に向って呪い、正面から盾に対《むか》う敵には固《もと》より正面を見て呪う。ある時は盾の裏にかくるる持主をさえ呪いはせぬかと思わるる程怖しい。頭《かしら》の毛は春夏秋冬の風に一度に吹かれた様に残りなく逆立っている。しかもその一本一本の末は丸く平たい蛇《へび》の頭となってその裂け目から消えんとしては燃ゆる如き舌を出している。毛と云う毛は悉く蛇で、その蛇は悉く首を擡《もた》げて舌を吐いて縺《もつ》るるのも、捻《ね》じ合うのも、攀《よ》じあがるのも、にじり出るのも見らるる。五寸の円の内部に獰悪《どうあく》なる夜叉の顔を辛うじて残して、額際から顔の左右を残なく填《うず》めて自然《じねん》に円の輪廓《りんかく》を形ちづくっているのはこの毛髪の蛇、蛇の毛髪である。遠き昔しのゴーゴンとはこれであろうかと思わるる位だ。ゴーゴンを見る者は石に化すとは当時の諺《ことわざ》であるが、この盾を熟視する者は何人《なんびと》もその諺のあながちならぬを覚《さと》るであろう。
盾には創《き
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