しはこの時代の事と思え。
この盾は何時の世のものとも知れぬ。パヴィースと云うて三角を倒《さかし》まにして全身を蔽《おお》う位な大きさに作られたものとも違う。ギージという革紐《かわひも》にて肩から釣るす種類でもない。上部に鉄の格子《こうし》を穿《あ》けて中央の孔から鉄砲を打つと云う仕懸《しかけ》の後世のものでは無論ない。いずれの時、何者が錬《きた》えた盾かは盾の主人なるウィリアムさえ知らぬ。ウィリアムはこの盾を自己の室《へや》の壁に懸けて朝夕《ちょうせき》眺めている。人が聞くと不可思議な盾だと云う。霊の盾だと云う。この盾を持って戦に臨むとき、過去、現在、未来に渉《わた》って吾願を叶える事のある盾だと云う。名あるかと聞けば只|幻影《まぼろし》の盾と答える。ウィリアムはその他を言わぬ。
盾の形は望《もち》の夜の月の如く丸い。鋼《はがね》で饅頭《まんじゅう》形の表を一面に張りつめてあるから、輝やける色さえも月に似ている。縁《ふち》を繞《めぐ》りて小指の先程の鋲《びょう》が奇麗に五分程の間を置いて植えられてある。鋲の色もまた銀色である。鋲の輪の内側は四寸ばかりの円を画《かく》して匠人の巧を尽
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