そめて、舌を打つ。「わが渡り合いしは巨人の中の巨人なり。銅板に砂を塗れる如き顔の中に眼《まなこ》懸りて稲妻《いなずま》を射る。我を見て南方の犬尾を捲《ま》いて死ねと、かの鉄棒を脳天より下す。眼を遮《さえぎ》らぬ空の二つに裂くる響して、鉄の瘤はわが右の肩先を滑《す》べる。繋《つな》ぎ合せて肩を蔽《おお》える鋼鉄《はがね》の延板の、尤《もっと》も外に向えるが二つに折れて肉に入る。吾がうちし太刀先は巨人の盾を斜《ななめ》に斫《き》って戞《かつ》と鳴るのみ。……」ウィリアムは急に眼を転じて盾の方を見る。彼の四世の祖が打ち込んだ刀痕《とうこん》は歴然と残っている。ウィリアムは又読み続ける。「われ巨人を切る事三|度《たび》、三度目にわが太刀は鍔元《つばもと》より三つに折れて巨人の戴く甲の鉢金の、内側に歪《ゆが》むを見たり。巨人の椎《つい》を下すや四たび、四たび目に巨人の足は、血を含む泥を蹴《け》て、木枯の天狗《てんぐ》の杉を倒すが如く、薊《あざみ》の花のゆらぐ中に、落雷も耻《は》じよとばかり※[#「革+堂」、第3水準1−93−80]《どう》と横たわる。横たわりて起きぬ間を、疾《と》くも縫えるわが短
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