顔が笑っている。去年分れた時の顔と寸分|違《たが》わぬ。顔の周囲を巻いている髪の毛が……ウィリアムは呪われたる人の如くに、千里の遠きを眺めている様な眼付で石の如く盾を見ている。日の加減か色が真青だ。……顔の周囲を巻いている髪の毛が、先《さ》っきから流れる水に漬けた様にざわざわと動いている。髪の毛ではない無数の蛇の舌が断間なく震動して五寸の円の輪を揺り廻るので、銀地に絹糸の様に細い炎が、見えたり隠れたり、隠れたり見えたり、渦を巻いたり、波を立てたりする。全部が一度に動いて顔の周囲を廻転するかと思うと、局部が纔《わず》かに動きやんで、すぐその隣りが動く。見る間に次へ次へと波動が伝わる様にもある。動く度《たび》に舌の摩《す》れ合う音でもあろう微かな声が出る。微かではあるが只一つの声ではない、漸《ようや》く鼓膜に響く位の静かな音のうちに――無数の音が交っている。耳に落つる一の音が聴けば聴く程多くの音がかたまって出来上った様に明かに聞き取られる。盾の上に動く物の数多きだけ、音の数も多く、又その動くものの定かに見えぬ如く、出る音も微《かす》かであららかには鳴らぬのである。……ウィリアムは手に下げた
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