だ》けたる※[#「角+光」、第3水準1−91−91]片《こうへん》と共にルーファスの胸のあたりまで跳ね上る。「夜《よ》迷《ま》い烏の黒き翼を、切って落せば、地獄の闇《やみ》ぞ」とルーファスは革に釣る重き剣に手を懸けてするすると四五寸ばかり抜く。一座の視線は悉く二人の上に集まる。高き窓洩る夕日を脊に負う、二人の黒き姿の、この世の様とも思われぬ中に、抜きかけた剣のみが寒き光を放つ。この時ルーファスの次に座を占めたるウィリアムが「渾名《あだな》こそ狼なれ、君が剣に刻《きざ》める文字に耻《は》じずや」と右手《めて》を延ばしてルーファスの腰のあたりを指《ゆびさ》す。幅広き刃《やいば》の鍔《つば》の真下に pro gloria et patria と云う銘が刻んである。水を打った様な静かな中に、只ルーファスが抜きかけた剣を元の鞘《さや》に収むる声のみが高く響いた。これより両家の間は長く中絶えて、ウィリアムの乗り馴《な》れた栗毛《くりげ》の馬は少しく肥えた様に見えた。
 近頃は戦さの噂《うわさ》さえ頻《しき》りである。睚眦《がいさい》の恨《うらみ》は人を欺く笑《えみ》の衣に包めども、解け難き胸の乱れ
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