改めます。真面目《まじめ》な人間になります。どうか許して下さい。新橋へ行けばあなたのためにも、私のためにも悪いです。だから行かなかったです。許して下さい」
藤尾の表情は三たび変った。破裂した血管の血は真白に吸収されて、侮蔑《ぶべつ》の色のみが深刻に残った。仮面《めん》の形は急に崩《くず》れる。
「ホホホホ」
歇私的里性《ヒステリせい》の笑は窓外の雨を衝《つ》いて高く迸《ほとばし》った。同時に握る拳《こぶし》を厚板の奥に差し込む途端にぬらぬらと長い鎖を引き出した。深紅《しんく》の尾は怪しき光を帯びて、右へ左へ揺《うご》く。
「じゃ、これはあなたには不用なんですね。ようござんす。――宗近さん、あなたに上げましょう。さあ」
白い手は腕をあらわに、すらりと延びた。時計は赭黒《あかぐろ》い宗近君の掌《てのひら》に確《しっか》と落ちた。宗近君は一歩を煖炉に近く大股に開いた。やっと云う掛声と共に赭黒《あかぐろ》い拳が空《くう》に躍《おど》る。時計は大理石の角《かど》で砕けた。
「藤尾さん、僕は時計が欲しいために、こんな酔興《すいきょう》な邪魔をしたんじゃない。小野さん、僕は人の思をかけた女が欲
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