藤尾の表情は忽然《こつぜん》として憎悪《ぞうお》となった。憎悪はしだいに嫉妬《しっと》となった。嫉妬の最も深く刻み込まれた時、ぴたりと化石した。
「まだ妻君じゃない。ないが早晩妻君になる人だ。五年前からの約束だそうだ」
小夜子は泣き腫《は》らした眼を俯《ふ》せたまま、細い首を下げる。藤尾は白い拳《こぶし》を握ったまま、動かない。
「嘘《うそ》です。嘘です」と二遍云った。「小野さんは私《わたし》の夫《おっと》です。私の未来の夫です。あなたは何を云うんです。失礼な」と云った。
「僕はただ好意上事実を報知するまでさ。ついでに小夜子さんを紹介しようと思って」
「わたしを侮辱する気ですね」
化石した表情の裏で急に血管が破裂した。紫色の血は再度の怒《いかり》を満面に注《そそ》ぐ。
「好意だよ。好意だよ。誤解しちゃ困る」と宗近君はむしろ平然としている。――小野さんはようやく口を開いた。――
「宗近君の云うところは一々本当です。これは私の未来の妻に違ありません。――藤尾さん、今日《こんにち》までの私は全く軽薄な人間です。あなたにも済みません。小夜子にも済みません。宗近君にも済みません。今日から
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