の怒《いかり》を乗せて韋駄天《いだてん》のごとく新橋から馳《か》けて来る。
 宗近君は胴衣《ちょっき》の上で、ぱちりと云わした。
「三時二十分」
 何とも応《こた》えるものがない。車は千筋《ちすじ》の雨を、黒い幌《ほろ》に弾《はじ》いて一散に飛んで来る。クレオパトラの怒《いかり》は布団《ふとん》の上で躍《おど》り上る。
「御叔母《おば》さん京都の話でも、しましょうかね」
 降る雨の地に落ちぬ間《ま》を追い越せと、乗る怒は車夫の背を鞭《むちう》って馳《か》けつける。横に煽《あお》る風を真向《まむき》に切って、歯を逆に捩《ねじ》ると、甲野の門内に敷き詰めた砂利が、玄関先まで長く二行に砕けて来た。
 濃い紫《むらさき》の絹紐《リボン》に、怒をあつめて、幌《ほろ》を潜《くぐ》るときに颯《さっ》とふるわしたクレオパトラは、突然と玄関に飛び上がった。
「二十五分」
と宗近君が云い切らぬうちに、怒の権化《ごんげ》は、辱《はずか》しめられたる女王のごとく、書斎の真中に突っ立った。六人の目はことごとく紫の絹紐にあつまる。
「やあ、御帰り」と宗近君が煙草を啣《くわ》えながら云う。藤尾は一言《いちごん》の挨
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