ところへ、雨の中の掛声がした。車が玄関で留った。玄関から足音が近づいて来た。真先に宗近君があらわれた。
「やあ、まだ行かないのか」と甲野さんに聞く。
「うん」と答えたぎりである。
「御叔母《おば》さんもここか、ちょうど好い」と腰を掛ける。後《あと》から小野さんが這入《はい》って来る。小野さんの影を一寸《いっすん》も出ないように小夜子がついてくる。
「御叔母さん、雨の降るのに大入《おおいり》ですよ。――小夜子さん、これが僕の妹です」
 活躍の児《じ》は一句にして挨拶《あいさつ》と紹介を兼《かね》る。宗近君は忙しい。甲野さんは依然として額を支えて立ったままである。小野さんも手持無沙汰《てもちぶさた》に席に着かぬ。小夜子と糸子はいたずらに丁寧な頭《つむり》を下げた。打ち解けた言葉は無論交す機会がない。
「雨の降るのに、まあよく……」
 母はこれだけの愛嬌《あいきょう》を一面に振り蒔《ま》いた。
「よく降りますね」と宗近君はすぐ答えた。
「小野さんは……」と母が云い懸《か》けた時、宗近君がまた遮《さえぎ》った。
「小野さんは今日藤尾さんと大森へ行く約束があるんだそうですね。ところが行かれな
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