味悪そうに振返る。
「おや」
天から降ったように、静かに立っていた糸子は、ゆるやかに頭《つむり》を下げた。鷹揚《おうよう》に膨《ふくら》ました廂髪《ひさしがみ》が故《もと》に帰ると、糸子は机の傍《そば》まで歩を移して来る。白足袋が両方|揃《そろ》った時、
「御迎《おむかえ》に参りました」と真直《まっすぐ》に欽吾を見上げた。
「鋏《はさみ》を取って下さい」と欽吾は上から頼む。顎《あご》で差図をした、レオパルジの傍に、鋏がある。――ぷつりと云う音と共に額は壁を離れた。鋏はかちゃりと床《ゆか》の上に落ちた。両手に額を捧げた欽吾は、机の上でくるりと正面に向き直った。
「兄が欽吾さんを連れて来いと申しましたから参りました」
欽吾は捧げた額を眼八分《めはちぶん》から、そろりそろりと下の方へ移す。
「受取って下さい」
糸子は確《しか》と受取った。欽吾は机から飛び下りる。
「行きましょう。――車で来たんですか」
「ええ」
「この額が乗りますか」
「乗ります」
「じゃあ」と再び額を受取って、戸口の方へ行く。糸子も行く。母は呼びとめた。
「少し御待ちよ。――糸子さんも少し待ってちょうだい。何が気に入
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