らないで、親の家《うち》を出るんだか知らないが、少しは私《わたし》の心持にもなって見てくれないと、私が世間へ対して面目がないじゃないか」
「世間はどうでも構わないです」
「そんな聞訳《ききわけ》のない事を云って、――頑是《がんぜ》ない小供みたように」
「小供なら結構です。小供になれれば結構です」
「またそんな。――せっかく、小供から大人《おとな》になったんじゃないか。これまでに丹精するのは、一と通りや二た通りの事じゃないよ、御前。少しは考えて御覧な」
「考えたから出るんです」
「どうして、まあ、そんな無理を云うんだろうね。――それもこれもみんな私の不行届から起った事だから、今更《いまさら》泣いたって、口説《くど》いたって仕方がないけれども、――私は――亡《な》くなった阿父《おとっ》さんに――」
「阿父さんは大丈夫です。何とも云やしません」
「云やしませんたって――何も、そう、意地にかかって私を苛《いじ》めなくっても宜《よ》さそうなもんじゃないか」
 甲野さんは額を提《さ》げたまま、何とも返事をしなくなった。糸子はおとなしく傍に着いている。雨は部屋を取り巻いて吹き寄せて来る。遠い所から風
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