時だ。君はどうせ行くまい」
「廃《よ》すです」
「藤尾さん一人で大森へ行く事は大丈夫ないね。うちやっておいたら帰ってくるだろう。三時過になれば」
「一分でも後《おく》れたら、待ち合す気遣《きづかい》ありません。すぐ帰るでしょう」
「ちょうど好い。――何だか、降って来たな。雨が降っても行く約束かい」
「ええ」
「この雨は――なかなか歇《や》みそうもない。――とにかく手紙で小夜子さんを呼ぼう。阿父《おやじ》が待ち兼《かね》て心配しているに違ない」
春に似合わぬ強い雨が斜めに降る。空の底は計られぬほど深い。深いなかから、とめどもなく千筋《ちすじ》を引いて落ちてくる。火鉢が欲しいくらいの寒《さむさ》である。
手紙は点滴《てんてき》の響の裡《うち》に認《したた》められた。使が幌《ほろ》の色を、打つ雨に揺《うご》かして、一散に去った時、叙述は移る。最前宗近家の門を出た第二の車はすでに孤堂先生の僑居《きょうきょ》に在《あ》って、応分の使命をつくしつつある。
孤堂先生は熱が出て寝た。秘蔵の義董《ぎとう》の幅《ふく》に背《そむ》いて横《よこた》えた額際《ひたいぎわ》を、小夜子が氷嚢《ひょうのう》で
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