っても差支《さしつかえ》ないはずだ。それさえ慎めば取り返しはつく。小夜子の方は浅井の返事しだいで、どうにかしよう」
 煙草の煙が、未来の影を朦朧《もうろう》と罩《こ》め尽すまで濃く揺曳《たなびい》た時、宗近君の頑丈《がんじょう》な姿が、すべての想像を払って、現実界にあらわれた。
 いつの間《ま》にどう下女が案内をしたか知らなかった。宗近君はぬっと這入《はい》った。
「だいぶ狼籍《ろうぜき》だね」と云いながら紅溜《べにだめ》の膳を廊下へ出す。黒塗の飯櫃《めしびつ》を出す。土瓶《どびん》まで運び出して置いて、
「どうだい」と部屋の真中に腰を卸《おろ》した。
「どうも失敬です」と主人は恐縮の体《てい》で向き直る。折よく下女が来て湯沸《ゆわかし》と共に膳椀を引いて行く。
 心を二六時に委《ゆだ》ねて、隻手《せきしゅ》を動かす事をあえてせざるものは、自《おのず》から約束を践《ふ》まねばならぬ運命を有《も》つ。安からぬ胸を秒ごとに重ねて、じりじりと怖《こわ》い所へ行く。突然と横合から飛び出した宗近君は、滑るべく余儀なくせられたる人を、半途《はんと》に遮《さえぎ》った。遮ぎられた人は邪魔に逢《あ》う
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