と同時に、一刻の安きを故《もと》の位地に貪《むさぼ》る事が出来る。
 約束は履行すべきものときまっている。しかし履行すべき条件を奪ったものは自分ではない。自分から進んで違約したのと、邪魔が降って来て、守る事が出来なかったのとは心持が違う。約束が剣呑《けんのん》になって来た時、自分に責任がないように、人が履行を妨《さまた》げてくれるのは嬉しい。なぜ行かないと良心に責められたなら、行くつもりの義務心はあったが、宗近君に邪魔をされたから仕方がないと答える。
 小野さんはむしろ好意をもって宗近君を迎えた。しかしこの一点の好意は、不幸にして面白からぬ感情のために四方から深く鎖《とざ》されている。
 宗近君と藤尾とは遠い縁続である。自分が藤尾を陥《おとし》いれるにしても、藤尾が自分を陥いれるにしても、二人の間に取り返しのつかぬ関係が出来そうな際どい約束を、素知らぬ顔で結んだのみか、今実行にとりかかろうと云う矢先に、突然飛び込まれたのは、迷惑はさて置いて、大いに気が咎《とが》める。無関係のものならそれでも好い。突然飛び込んだものは、人もあろうに、相手の親類である。
 ただの親類ならまだしもである。兼
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