》んだ眼が煮染《にじ》んで来た。しきりに咳が出る。浅井君はなるほどそれが事実ならと感心した。ようやく気の毒になってくる。
「じゃ、まあ御待ちなさい、先生。もう一遍小野に話して見ますから。僕はただ頼まれたから来たんで、そんな精《くわ》しい事情は知らんのですから」
「いや、話してくれないでも好い。厭《いや》だと云うものに無理に貰ってもらいたくはない。しかし本人が来て自家《じか》に訳を話すが好い」
「しかし御嬢さんが、そう云う御考だと……」
「小夜の考《かんがえ》ぐらい小野には分っているはずださ」と先生は平手《ひらて》で頬を打つように、ぴしゃりと云った。
「ですがな、それだと小野も困るでしょうから、もう一遍……」
「小野にそう云ってくれ。井上孤堂はいくら娘が可愛くっても、厭だと云う人に頭を下げて貰ってもらうような卑劣な男ではないって。――小夜や、おい、いないか」
襖《ふすま》の向側《むこうがわ》で、袖《そで》らしいものが唐紙《からかみ》の裾《すそ》にあたる音がした。
「そう返事をして差支《さしつかえ》ないだろうね」
答はさらになかった。ややあって、わっと云う顔を袖の中に埋《うず》めた声が
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