》めたまえと。無花果《いちじく》の繁れる青き葉陰にはナイルの泥《つち》の※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《ほのお》の舌《した》を冷やしたる毒蛇《どくだ》を、そっと忍ばせたり。該撒《シイザア》の使は走る。闥《たつ》を排して眼《まなこ》を射れば――黄金《こがね》の寝台に、位高き装《よそおい》を今日と凝《こ》らして、女王の屍《しかばね》は是非なく横《よこた》わる。アイリスと呼ぶは女王の足のあたりにこの世を捨てぬ。チャーミオンと名づけたるは、女王の頭《かしら》のあたりに、月黒き夜《よ》の露をあつめて、千顆《せんか》の珠《たま》を鋳たる冠《かんむり》の、今落ちんとするを力なく支う。闥を排したる該撒の使はこはいかにと云う。埃及《エジプト》の御代《みよ》しろし召す人の最後ぞ、かくありてこそと、チャーミオンは言い終って、倒れながらに目を瞑《ねむ》る」
[#ここで字下げ終わり]
埃及の御代しろし召す人の最後ぞ、かくありてこそと云う最後の一句は、焚《た》き罩《こ》むる錬香《ねりこう》の尽きなんとして幽《かす》かなる尾を虚冥《きょめい》に曳《ひ》くごとく、全《まった》き頁《ページ》が淡く
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