るんだろう。それならそれで好いさ」
「しかし……」
「君は僕を信用しないか」
「無論信用するさ」
「僕の方が母より高いよ。賢いよ。理由《わけ》が分っているよ。そうして僕の方が母より善人だよ」
宗近君は黙っている。甲野さんは続けた。――
「母の家を出てくれるなと云うのは、出てくれと云う意味なんだ。財産を取れと云うのは寄こせと云う意味なんだ。世話をして貰いたいと云うのは、世話になるのが厭《いや》だと云う意味なんだ。――だから僕は表向母の意志に忤《さから》って、内実は母の希望通にしてやるのさ。――見たまえ、僕が家《うち》を出たあとは、母が僕がわるくって出たように云うから、世間もそう信じるから――僕はそれだけの犠牲をあえてして、母や妹のために計ってやるんだ」
宗近君は突然|椅子《いす》を立って、机の角《かど》まで来ると片肘《かたひじ》を上に突いて、甲野さんの顔を掩《お》いかぶすように覗《のぞ》き込《こ》みながら、
「貴様、気が狂ったか」と云った。
「気違は頭から承知の上だ。――今まででも蔭じゃ、馬鹿の気違のと呼びつづけに呼ばれていたんだ」
この時宗近君の大きな丸い眼から涙がぽたぽたと机の
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