尾と関係を絶つ訳には行かぬだろう。そこで井上へは約束通り物質的の補助をする。
こう思い定めている小野さんは、浅井君が快よく依頼に応じた時、まず片荷《かたに》だけ卸《おろ》したなと思った。
「こう日が照ると、麦の香《におい》が鼻の先へ浮いてくるようだね」と小野さんの話頭はようやく自然に触れた。
「香《におい》がするかの。僕にはいっこうにおわんが」と浅井君は丸い鼻をふんふんと云わしたが、
「時に君はやはりあのハムレットの家《うち》へ行くのか」と聞く。
「甲野《こうの》の家かい。まだ行っている。今日もこれから行くんだ」と何気なく云う。
「この間京都へ行ったそうじゃな。もう帰ったか。ちと麦の香《におい》でも嗅《か》いで来たか知らんて。――つまらんのう、あんな人間は。何だか陰気くさい顔ばかりしているじゃないか」
「そうさね」
「ああ云う人間は早く死んでくれる方が好《え》え。だいぶ財産があるか」
「あるようだね」
「あの親類の人はどうした。学校で時々顔を見たが」
「宗近《むねちか》かい」
「そうそう。あの男の所へ二三日|中《うち》に行こうと思っとる」
小野さんは突然留った。
「何しに」
「口を
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