る。
 ただ破談を申し込むのと、破談を申し込みながら、申し込んだ後を奇麗に片づけるのとは別才である。落葉を振うものは必ずしも庭を掃《は》く人とは限らない。浅井君はたとい内裏拝観《だいりはいかん》の際でも落葉を振いおとす事をあえてする無遠慮な男である。と共に、たとい内裏拝観の際でも一塵を掃《はら》う事を解せざるほどに無責任の男である。浅井君は浮ぶ術を心得ずして、水に潜《もぐ》る度胸者である。否潜るときに、浮ぶ術が必要であると考えつけぬ豪傑である。ただ引受ける。やって見ようと云う気で、何でも引き受ける。それだけである。善悪、理非、軽重《けいちょう》、結果を度外に置いて事物を考え得るならば、浅井君は他意なき善人である。
 それほどの事を知らぬ小野さんではない。知って依頼するのはただ破談を申し込めばそれで構わんと見限《みきり》をつけたからである。先方で苦状《くじょう》を云えば逃げる気である。逃げられなくても、そのうち向うから泣寝入《なきねいり》にせねばならぬような準備をととのえてある。小野さんは明日《あした》藤尾と大森へ遊びに行く約束がある。――大森から帰ったあとならば大抵な事が露見しても、藤
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