相談もただ結婚と云う単純な問題じゃなくって、それを方便にして、僕の補助を受けたいような素振《そぶり》も見えたくらいだ。だから、そりゃやるよ。飽《あ》くまでも先生のために尽すつもりだ。だが結婚したから尽す、結婚せんから尽さないなんて、そんな軽薄な料簡《りょうけん》は少しもこっちにゃないんだから――世話になった以上はどうしたって世話になったのさ。それを返してしまうまではどうしたって恩は消えやしないからな」
「君は感心な男だ。先生が聞いたらさぞ喜ぶだろう」
「よく僕の意志が徹するように云ってくれたまえ。誤解が出来るとまた後《あと》が困るから」
「よし。感情を害せんようにの。よう云うてやる。その代り十円貸すんぜ」
「貸すよ」と小野さんは笑ながら答えた。
 錐《きり》は穴を穿《うが》つ道具である。縄は物を括《くく》る手段である。浅井君は破談を申し込む器械である。錐でなくては松板を潜《くぐ》り抜けようと企《くわだ》てるものはない。縄でなくては栄螺《さざえ》を取り巻く覚悟はつかぬ。浅井君にして始めてこの談判を、風呂に行く気で、引き受ける事が出来る。小野さんは才人である。よく道具を用いるの法を心得てい
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