づえ》をついた人の顔が五寸下に見える。
「今月末でも、いつでも好い。――その代り少し御願がある。聞いてくれるかい」
「うん、話して見い」
浅井君は容易に受合った。同時に頬杖をやめて背を立てる。二人の顔はすれすれに来た。
「実は井上先生の事だがね」
「おお、先生はどうしとるか。帰ってから、まだ尋ねる閑《ひま》がないから、行かんが。君先生に逢《お》うたら宜《よろ》しく云うてくれ。ついでに御嬢さんにも」
浅井君はハハハハと高く笑った。ついでに欄干から胸をつき出して、涎《よだれ》のごとき唾《つば》を遥《はる》かの下に吐いた。
「その御嬢さんの事なんだが……」
「いよいよ結婚するか」
「君は気が早くっていけない。そう先へ云っちまっちゃあ……」と言葉を切って、しばらく麦畑を眺めていたが、たちまち手に持った吸殻を向《むこう》へ投げた。白いカフスが七宝《しっぽう》の夫婦釦《めおとボタン》と共にかしゃと鳴る。一寸に余る金が空《くう》を掠《かす》めて橋の袂《たもと》に落ちた。落ちた煙は逆様《さかさま》に地から這《は》い揚《あ》がる。
「もったいない事をするのう」と浅井君が云った。
「君本当に僕の云う事
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