間を、一筋の金泥《きんでい》が蜿蜒《えんえん》と縁《ふち》まで這上《はいあが》る。形は甕《かめ》のごとく、鉢《はち》が開いて、開いた頂《いただき》が、がっくりと縮まると、丸い縁《ふち》になる。向い合せの耳を潜《くぐ》る蔓《つる》には、ぎりぎりと渋《しぶ》を帯びた籐《と》を巻きつけて手提《てさげ》の便を計る。
宗近の父《おとっ》さんは昨日《きのう》どこの古道具屋からか、継《つぎ》のあるこの煙草盆を堀り出して来て、今朝から祥瑞だ、祥瑞だと騒いだ結果、灰を入れ、火を入れ、しきりに煙草を吸っている。
ところへ入口の唐紙《からかみ》をさらりと開けて、宗近君が例のごとく活溌《かっぱつ》に這入《はい》って来る。父は煙草盆から眼を離した。見ると忰《せがれ》は親譲りの背広をだぶだぶに着て、カシミヤの靴足袋《くつたび》だけに、大なる通《つう》をきめている。
「どこぞへ行くかね」
「行くんじゃない、今帰ったところです。――ああ暑い。今日はよっぽど暑いですね」
「家《うち》にいると、そうでもない。御前はむやみに急ぐから暑いんだ。もう少し落ちついて歩いたらどうだ」
「充分落ちついているつもりなんだが、そう見
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