てやって下さい」
甲野さんは腕組のまま、じっと、深い瞳《ひとみ》を母の上に据《す》えた。母の眼はなぜか洋卓《テエブル》の上に落ちている。
「世話はする気です」と徐《しず》かに云う。
「御前がそう云ってくれると私《わたし》もまことに安心です」
「する気どころじゃない。したいと思っているくらいです」
「それほどに思ってくれると聞いたら当人もさぞ喜ぶ事だろう」
「ですが……」で言葉は切れた。母は後《あと》を待つ。欽吾は腕組を解いて、椅子に倚《よ》る背を前に、胸を洋卓《テエブル》の角《かど》へ着けるほど母に近づいた。
「ですが、母《おっか》さん。藤尾の方では世話になる気がありません」
「そんな事が」と今度は母の方が身体《からだ》を椅子の背に引いた。甲野さんは一筋の眉さえ動かさない。同じような低い声を、静かに繋《つな》げて行く。
「世話をすると云うのは、世話になる方でこっちを信仰――信仰と云うのは神さまのようでおかしい」
甲野さんはここでぽつりと言葉を切った。母はまだ番が回って来ないと心得たか、尋常に控えている。
「とにかく世話になっても好いと思うくらいに信用する人物でなくっちゃ駄目です」
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