奇麗《きれい》に芽《め》を吹きましたね」
「見事だね。かえって生《なま》じいな花よりも、好《よ》ござんすよ。ここからは、たった一本しっきゃ見えないね。向《むこう》へ廻ると刈り込んだのが丸《まある》く揃《そろ》って、そりゃ奇麗」
「あなたの部屋からが一番好く見えるようですね」
「ああ、御覧かい」
 甲野さんは見たとも見ないとも云わなかった。母は云う。――
「それにね。近頃は陽気のせいか池の緋鯉《ひごい》が、まことによく跳《はね》るんで……ここから聞えますかい」
「鯉の跳る音がですか」
「ああ」
「いいえ」
「聞えない。聞えないだろうねこう立て切って有っちゃあ。母《おっか》さんの部屋からでも聞えないくらいだから。この間藤尾に母さんは耳が悪くなったって、さんざん笑われたのさ。――もっとも、もう耳も悪くなって好い年だから仕方がないけれども」
「藤尾はいますか」
「いるよ。もう小野さんが来て稽古《けいこ》をする時分だろう。――何か用でもあるかい」
「いえ、用は別にありません」
「あれも、あんな、気の勝った子で、さぞ御前さんの気に障《さわ》る事もあろうが、まあ我慢して、本当の妹だと思って、面倒を見
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