夜半《やはん》太平の計《はかりごと》熟す。甲野さんがただ一人書斎で考えている間に、母と藤尾《ふじお》は日本間の方で小声に話している。
「じゃあ、まだ話さないんですね」と藤尾が云う。茶の勝った節糸《ふしいと》の袷《あわせ》は存外|地味《じみ》な代りに、長く明けた袖《そで》の後《うしろ》から紅絹《もみ》の裏が婀娜《あだ》な色を一筋《ひとすじ》なまめかす。帯に代赭《たいしゃ》の古代模様《こだいもよう》が見える。織物の名は分らぬ。
「欽吾にかい」と母が聞き直す。これもくすんだ縞物《しまもの》を、年相応に着こなして、腹合せの黒だけが目に着くほどに締めている。
「ええ」と応じた藤尾は
「兄さんは、まだ知らないんでしょう」と念を押す。
「まだ話さないよ」と云ったぎり、母は落ちついている。座布団《ざぶとん》の縁《ふち》を捲《まく》って、
「おや、煙管《きせる》はどうしたろう」と云う。
 煙管は火鉢の向う側にある。長い羅宇《らお》を、逆《ぎゃく》に、親指の股《また》に挟んで
「はい」と手取形の鉄瓶《てつびん》の上から渡す。
「話したら何とか云うでしょうか」と差し出した手をこちら側へ引く。
「云えば御廃《
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