活きている眼は、壁の上から甲野さんを見詰めている。甲野さんは椅子《いす》に倚《よ》り掛ったまま、壁の上を見詰めている。二人の眼は見るたびにぴたりと合う。じっとして動かずに、合わしたままの秒を重ねて分に至ると、向うの眸《ひとみ》が何となく働らいて来た。睛《せい》を閑所《かんしょ》に転ずる気紛《きまぐれ》の働ではない。打ち守る光が次第に強くなって、眼を抜けた魂がじりじりと一直線に甲野さんに逼《せま》って来る。甲野さんはおやと、首を動《うごか》した。髪の毛が、椅子の背を離れて二寸ばかり前へ出た時、もう魂はいなくなった。いつの間《ま》にやら、眼のなかへ引き返したと見える。一枚の額は依然として一枚の額に過ぎない。甲野さんは再び黒い頭を椅子の肩に投げかけた。
馬鹿馬鹿しい。が近頃時々こんな事がある。身体《からだ》が衰弱したせいか、頭脳《あたま》の具合が悪いからだろう。それにしてもこの画は厭だ。なまじい親父《おやじ》に似ているだけがなお気掛りである。死んだものに心を残したって始まらないのは知れている。ところへ死んだものを鼻の先へぶら下げて思え思えと催促されるのは、木刀を突き付けて、さあ腹を切れと逼
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