とりと墨壺《すみつぼ》の底に落す。落したまま容易に上げないと思うと、ついには手を放した。レオパルジは開いたまま、黄な表紙の日記を頁《ページ》の上に載せる。両足を踏張《ふんば》って、組み合せた手を、頸根《くびね》にうんと椅子の背に凭《もた》れかかる。仰向《あおむ》く途端に父の半身画と顔を見合わした。
 余り大きくはない。半身とは云え胴衣《チョッキ》の釦《ボタン》が二つ見えるだけである。服はフロックと思われるが、背景の暗いうちに吸い取られて、明らかなのは、わずかに洩《も》るる白襯衣《しろシャツ》の色と、額の広い顔だけである。
 名のある人の筆になると云う。三年|前《ぜん》帰朝の節、父はこの一面を携えて、遥《はる》かなる海を横浜の埠頭《ふとう》に上《のぼ》った。それより以後は、欽吾が仰ぐたびに壁間に懸《かか》っている。仰がぬ時も壁間から欽吾を見下《みおろ》している。筆を執《と》るときも、頬杖《ほおづえ》を突くときも、仮寝《うたたね》の頭を机に支うるときも――絶えず見下している。欽吾がいない時ですら、画布《カンヴァス》の人は、常に書斎を見下している。
 見下すだけあって活きている。眼玉に締りが
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