尺|列《つら》ねて戸口まで続く。組めば重ね、離せば一段の棚を喜んで、亡き父が西洋《むこう》から取り寄せたものである。いっぱいに並べた書物が紺に、黄に、いろいろに、ゆかしき光を闘わすなかに花文字の、角文字《かくもじ》の金は、縦にも横にも奇麗である。
 小野さんは欽吾《きんご》の書斎を見るたびに羨《うらやま》しいと思わぬ事はない。欽吾も無論|嫌《きら》ってはおらぬ。もとは父の居間であった。仕切りの戸を一つ明けると直《すぐ》応接間へ抜ける。残る一つを出ると内廊下から日本座敷へ続く。洋風の二間は、父が手狭《てぜま》な住居《すまい》を、二十世紀に取り拡《ひろ》げた便利の結果である。趣味に叶《かな》うと云わんよりは、むしろ実用に逼《せま》られて、時好の程度に己《おの》れを委却《いきゃく》した建築である。さほどに嬉《うれ》しい部屋ではない。けれども小野さんは非常に羨ましがっている。
 こう云う書斎に這入《はい》って、好きな書物を、好きな時に読んで、厭《あ》きた時分に、好きな人と好きな話をしたら極楽《ごくらく》だろうと思う。博士論文はすぐ書いて見せる。博士論文を書いたあとは後代を驚ろかすような大著述を
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