ら、すぐ片づける事も出来る。宗近《むねちか》のような平気な男なら、苦もなくどうかするだろう。甲野《こうの》なら超然として板挟《いたばさ》みになっているかも知れぬ。しかし自分には出来ない。向《むこう》へ行って一歩深く陥《はま》り、こっちへ来て一歩深く陥る。双方へ気兼をして、片足ずつ双方へ取られてしまう。つまりは人情に絡《から》んで意思に乏しいからである。利害? 利害の念は人情の土台の上に、後《あと》から被《かぶ》せた景気の皮である。自分を動かす第一の力はと聞かれれば、すぐ人情だと答える。利害の念は第三にも第四にも、ことによったら全くなくっても、自分はやはり同様の結果に陥《おちい》るだろうと思う。――小野さんはこう考えて歩いて行く。
いかに人情でも、こんなに優柔ではいけまい。手を拱《こまぬ》いて、自然の為《な》すがままにして置いたら、事件はどう発展するか分らない。想像すると怖《おそろ》しくなる。人情に屈託していればいるほど、怖しい発展を、眼《ま》のあたりに見るようになるかもしれぬ。是非ここで、どうかせねばならん。しかし、まだ二三日の余裕はある。二三日よく考えた上で決断しても遅くはない。二
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