羽目《はめ》に陥《おち》る。水に溺《おぼ》れるものは水を蹴《け》ると何かの本にあった。背に腹は替えられぬ今の場合、と諦《あきら》めて蹴ってしまえばそれまでである。が……
女の話し声がする。人影は二つ、路の向う側をこちらへ近づいて来る。吾妻下駄《あずまげた》と駒下駄の音が調子を揃《そろ》えて生温《なまぬる》く宵を刻んで寛《ゆたか》なるなかに、話し声は聞える。
「洋灯《ランプ》の台を買って来て下さったでしょうか」と一人が云う。「そうさね」と一人が応《こた》える。「今頃は来ていらっしゃるかも知れませんよ」と前の声がまた云う。「どうだか」と後《あと》の声がまた応《こた》える。「でも買って行くとおっしゃったんでしょう」と押す。「ああ。――何だか暖《あった》か過ぎる晩だこと」と逃げる。「御湯のせいでござんすよ。薬湯は温《あった》まりますから」と説明する。
二人の話はここで小野さんの向側《むこうがわ》を通り越した。見送ると並ぶ軒下から頭の影だけが斜《はす》に出て、蕎麦屋の方へ動いて行く。しばらく首を捩《ね》じ向けて、立ち留っていた小野さんは、また歩き出した。
浅井のように気の毒気の少ないものな
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