+禹」、第3水準1−92−38]々《くく》として独《ひと》り行くと云う句に似ている。
実は夕食《ゆうめし》もまだ食わない。いつもなら通りへ出ると、すぐ西洋料理へでも飛び込む料簡《りょうけん》で、得意な襞《ひだ》の正しい洋袴を、誇り顔に運ぶはずである。今宵《こよい》はいつまで立っても腹も減らない。牛乳《ミルク》さえ飲む気にならん。陽気は暖か過ぎる。胃は重い。引く足は千鳥にはならんが、確《しか》と踏答《ふみごた》えがないような心持である。そと卸《おろ》すせいかも知れぬ。さればとて、こつりと大地へ当てる気にはならん。巡査のようにあるけたなら世に朧は要《い》らぬ。次に心配は要らぬ。巡査だから、ああも歩ける。小野さんには――ことに今夜の小野さんには――巡査の真似は出来ない。
なぜこう気が弱いだろう――小野さんは考えながら、ふらふら歩いている。――なぜこう気が弱いだろう。頭脳も人には負けぬ。学問も級友の倍はある。挙止動作から衣服《きもの》の着こなし方に至って、ことごとく粋《すい》を尽くしていると自信している。ただ気が弱い。気が弱いために損をする。損をするだけならいいが乗《の》っ引《ぴ》きならぬ
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