どうしたい。まだ帰らないかい」
「もう帰る時分ですが。ことに因《よ》ると今日くらいの汽車で帰って来るかも知れません」
「一昨《おととい》かの手紙には、二三日中に帰るとあったよ」
「はあ、そうでしたか」と云ったぎり、小野さんは捩《ね》じ上げた五分心《ごぶじん》の頭を無心に眺《なが》めている。浅井の帰京と五分心の関係を見極《みきわ》めんと思索するごとくに眸子《ぼうし》は一点に集った。
「先生」と云う。顔は先生の方へ向け易《か》えた。例になく口の角《かど》にいささかの決心を齎《もたら》している。
「何だい」
「今の御話ですね」
「うん」
「もう二三日待って下さいませんか」
「もう二三日」
「つまり要領を得た御返事をする前にいろいろ考えて見たいですから」
「そりゃ好いとも。三日でも四日でも、――一週間でも好い。事が判然《はっきり》さえすれば安心して待っている。じゃ小夜にもそう話して置こう」
「ええ、どうか」と云いながら恩賜の時計を出す。夏に向う永い日影が落ちてから、夜《よ》の針は疾《と》く回るらしい。
「じゃ、今夜は失礼します」
「まあ好いじゃないか。もう帰って来る」
「また、すぐ来ますから」
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