観が瞬《またたき》と共に変るように明るくなる。小野さんはまだ螺旋《ねじ》から手を放さない。
「もう好い。そのくらいで好い。あんまり出すと危ない」と先生が云う。
 小野さんは手を放した。手を引くときに、自分でカフスの奥を腕まで覗《のぞ》いて見る。やがて背広《せびろ》の表隠袋《おもてかくし》から、真白な手巾《ハンケチ》を撮《つま》み出して丁寧に指頭《ゆびさき》の油を拭き取った。
「少し灯《ひ》が曲っているから……」と小野さんは拭き取った指頭を鼻の先へ持って来てふんふんと二三度|嗅《か》いだ。
「あの婆さんが切るといつでも曲る」と先生は股《また》の開いた灯を見ながら云う。
「時にあの婆さんはどうです、御間に合いますか」
「そう、まだ礼も云わなかったね。だんだん御手数《おてすう》を掛けて……」
「いいえ。実は年を取ってるから働らけるかと思ったんですが」
「まあ、あれで結構だ。だんだん慣《な》れてくる様子だから」
「そうですか、そりゃ好い按排《あんばい》でした。実はどうかと思って心配していたんですが。その代り人間はたしかだそうです。浅井が受合って行ったんですから」
「そうかい。時に浅井と云えば、
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