は昔の事である。
「時に小夜の事だがね」と先生は洋灯《ランプ》の灯《ひ》を見ながら云う。五分心《ごぶじん》を蒲鉾形《かまぼこなり》に点《とも》る火屋《ほや》のなかは、壺《つぼ》に充《みつ》る油を、物言わず吸い上げて、穏かな※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《ほのお》の舌が、暮れたばかりの春を、動かず守る。人|佗《わび》て淋《さみ》しき宵《よい》を、ただ一点の明《あか》きに償《つぐの》う。燈灯《ともしび》は希望《のぞみ》の影を招く。
「時に小夜の事だがね。知っての通りああ云う内気な性質《たち》ではあるし、今の女学生のようにハイカラな教育もないからとうてい気にもいるまいが、……」まで来て先生は洋灯から眼を放した。眼は小野さんの方に向う。何とか取り合わなければならない。
「いいえ――どうして――」と受けて、ちょっと句を切って見せたが、先生は依然として、こっちの顔から眸《ひとみ》を動かさない。その上口を開《き》かずに何だか待っている。
「気にいらんなんて――そんな事が――あるはずがないですが」とぽつぽつに答える。ようやくに納得《なっとく》した先生は先へ進む。
「あれも不憫《ふび
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