》の黒い穴が、椽《えん》の下へ抜けているのを眺《なが》めながら取次をおとなしく待つ。返事はやがてした。うん[#「うん」に傍点]と云うのか、ああ[#「ああ」に傍点]と云うのかはい[#「はい」に傍点]と云うのか、さらに要領を得ぬ声である。小野さんはやはり菱形の黒い穴を覗《のぞ》きながら取次を待っている。やがて障子《しょうじ》の向《むこう》でずしんと誰か跳《は》ね起きた様子である。怪しい普請《ふしん》と見えて根太《ねだ》の鳴る音が手に取るように聞える。例の壁紙模様の襖《ふすま》が開《あ》く。二畳の玄関へ出て来たなと思う間《ま》もなく、薄暗い障子の影に、肉の落ちた孤堂先生の顔が髯《ひげ》もろともに現われた。
平生からあまり丈夫には見えない。骨が細く、躯《からだ》が細く、顔はことさら細く出来上ったうえに、取る年は争われぬ雨と風と苦労とを吹きつけて、辛《から》い浮世に、辛くも取り留めた心さえ細くなるばかりである。今日は一層《ひとしお》顔色が悪い。得意の髯さえも尋常には見えぬ。黒い隙間《すきま》を白いのが埋《うず》めて、白い隙間を風が通る。
古《いにしえ》の人は顎《あご》の下まで影が薄い。一本ず
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