。したがって気楽な宗近が羨ましい。万事を商量するものは一本調子の人を羨ましがる。
 春は行く。行く春は暮れる。絹のごとき浅黄《あさぎ》の幕はふわりふわりと幾枚も空を離れて地の上に被《かぶ》さってくる。払い退《の》ける風も見えぬ往来は、夕暮のなすがままに静まり返って、蒼然《そうぜん》たる大地の色は刻々に蔓《はびこ》って来る。西の果《はて》に用もなく薄焼けていた雲はようやく紫に変った。
 蕎麦屋《そばや》の看板におかめの顔が薄暗く膨《ふく》れて、後《うしろ》から点《つ》ける灯《ひ》を今やと赤い頬に待つ向横町《むこうよこちょう》は、二間足らずの狭い往来になる。黄昏《たそがれ》は細長く家と家の間に落ちて、鎖《とざ》さぬ門《かど》を戸ごとにくぐる。部屋のなかはなおさら暗いだろう。
 曲って左側の三軒目まで来た。門構と云う名はつけられない。往来をわずかに仕切る格子戸《こうしど》をそろりと明けると、なかは、ほのくらく近づく宵《よい》を、一段と刻んで下へ降りたような心持がする。
「御免」と云う。
 静かな声は落ついた春の調子を乱さぬほどに穏《おだやか》である。幅一尺の揚板《あげいた》に、菱形《ひしがた
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