是非共嘘を実と通用させなければならぬ。
それが何となく苦しい。これから先生の所へ行けばきっと二重の嘘を吐かねばならぬような話を持ちかけられるに違ない。切り抜ける手はいくらもあるが、手詰《えづめ》に出られると跳《は》ねつける勇気はない。もう少し冷刻に生れていれば何の雑作《ぞうさ》もない。法律上の問題になるような不都合はしておらんつもりだから、判然《はっきり》断わってしまえばそれまでである。しかしそれでは恩人に済まぬ。恩人から逼《せま》られぬうちに、自分の嘘が発覚せぬうちに、自然が早く廻転して、自分と藤尾が公然結婚するように運ばなければならん。――後《あと》は? 後は後から考える。事実は何よりも有効である。結婚と云う事実が成立すれば、万事はこの新事実を土台にして考え直さなければならん。この新事実を一般から認められれば、あとはどんな不都合な犠牲でもする。どんなにつらい考え直し方でもする。
ただ機一髪と云う間際《まぎわ》で、煩悶《はんもん》する。どうする事も出来ぬ心が急《せ》く。進むのが怖《こわ》い。退《しり》ぞくのが厭《いや》だ。早く事件が発展すればと念じながら、発展するのが不安心である
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