きまっている。不断なら進んで聞くところだが、何となく空景気《からけいき》を着けるような心持がして、どこで[#「どこで」に傍点]と押を強く出損《でそく》なったまま、二三歩あるく。
「嵐山《らんざん》へ行くところも見た」
「見ただけですか」
「知らない人に話は出来ない。見ただけさ」
「話して見れば好かったのに」
小野さんは突然|冗談《じょうだん》を云う。にわかに景気が好くなった。
「団子を食っているところも見た」
「どこで」
「やっぱり嵐山《らんざん》だ」
「それっ切りですか」
「まだ有る。京都から東京までいっしょに来た」
「なるほど勘定して見ると同じ汽車でしたね」
「君が停車場《ステーション》へ迎えに行ったところも見た」
「そうでしたか」と小野さんは苦笑した。
「あの人は東京ものだそうだね」
「誰が……」と云い掛けて、小野さんは、眼鏡の珠《たま》のはずれから、変に相手の横顔を覗《のぞ》き込んだ。
「誰が? 誰がとは」
「誰が話したんです」
小野さんの調子は存外落ついている。
「宿屋の下女が話した」
「宿屋の下女が? 蔦屋《つたや》の?」
念を押したような、後《あと》が聞きたいような
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