しかし何だか引っ掛っている。浅かれ深かれ宗近君と孤堂《こどう》先生との関係をぷすりと切って棄てたい。しかし自然が結んだものは、いくら能才でも天才でも、どうする訳にも行かない。京の宿屋は何百軒とあるに、何で蔦屋《つたや》へ泊り込んだものだろうと思う。泊らんでも済むだろうにと思う。わざわざ三条へ梶棒《かじぼう》を卸《おろ》して、わざわざ蔦屋へ泊るのはいらざる事だと思う。酔興《すいきょう》だと思う。余計な悪戯《いたずら》だと思う。先方に益《えき》もないのに好んで人を苦しめる泊り方だと思う。しかしいくら、どう思っても仕方がないと思う。小野さんは返事をする元気も出なかった。
「あの令嬢がね。小野さん」
「ええ」
「あの令嬢がねじゃいけない。あの令嬢をだ。――見たよ」
「宿の二階からですか」
「二階からも見た」
も[#「も」に傍点]の字が少し気になる。春雨の欄に出て、連翹《れんぎょう》の花もろともに古い庭を見下《みくだ》された事は、とくの昔に知っている。今更|引合《ひきあい》に出されても驚ろきはしない。しかし二階からも[#「も」に傍点]となると剣呑《けんのん》だ。そのほかにまだ見られた事があるに
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