好いか分らなくなる」
「行為《アクション》さ。本を読むばかりで何にも出来ないのは、皿に盛った牡丹餅《ぼたもち》を画《え》にかいた牡丹餅と間違えておとなしく眺《なが》めているのと同様だ。ことに文学者なんてものは奇麗な事を吐く割に、奇麗な事をしないものだ。どうだい小野さん、西洋の詩人なんかによくそんなのがあるようじゃないか」
「さよう」と小野さんは間《ま》を延ばして答えたが、
「例《たと》えば」と聞き返した。
「名前なんか忘れたが、何でも女をごまかしたり、女房をうっちゃったりしたのがいるぜ」
「そんなのはいないでしょう」
「なにいる、たしかにいる」
「そうかな。僕もよく覚えていないが……」
「専門家が覚えていなくっちゃ困る。――そりゃそうと昨夜《ゆうべ》の女ね」
 小野さんの腋《わき》の下が何だかじめじめする。
「あれは僕よく知ってるぜ」
 琴《こと》の事件なら糸子から聞いた。その外《ほか》に何も知るはずがない。
「蔦屋《つたや》の裏にいたでしょう」と一躍して先へ出てしまった。
「琴を弾いていた」
「なかなか旨《うま》いでしょう」と小野さんは容易に悄然《しょげ》ない。藤尾に逢った時とは少々
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