文学者だから金縁の眼鏡を掛ける必要が起るんだね」
「どうも、きびしい。しかしある意味で云えば、文学者も多少美術品でしょう」と小野さんはようやく窓を離れた。
「美術品で結構だが、金縁眼鏡だけで保険をつけてるのは情《なさけ》ない」
「とかく眼鏡が祟《たた》るようだ。――宗近君は近視眼じゃないんですか」
「勉強しないから、なりたくてもなれない」
「遠視眼でもないんですか」
「冗談《じょうだん》を云っちゃいけない。――さあ好加減《いいかげん》に歩こう」
 二人は肩を比《なら》べてまた歩き出した。
「君、鵜《う》と云う鳥を知ってるだろう」と宗近君が歩きながら云う。
「ええ。鵜がどうかしたんですか」
「あの鳥は魚をせっかく呑んだと思うと吐いてしまう。つまらない」
「つまらない。しかし魚は漁夫《りょうし》の魚籃《びく》の中に這入《はい》るから、いいじゃないですか」
「だからアイロニーさ。せっかく本を読むかと思うとすぐ屑籠《くずかご》のなかへ入れてしまう。学者と云うものは本を吐いて暮している。なんにも自分の滋養にゃならない。得《とく》の行くのは屑籠ばかりだ」
「そう云われると学者も気の毒だ。何をしたら
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