はさほどに怖《おそろ》しい。――その他の意味は無論分らぬ。
「あなたはそれで結構だ。動くと変ります。動いてはいけない」
「動くと?」
「ええ、恋をすると変ります」
 女は咽喉《のど》から飛び出しそうなものを、ぐっと嚥《の》み下《くだ》した。顔は真赤《まっか》になる。
「嫁に行くと変ります」
 女は俯向《うつむ》いた。
「それで結構だ。嫁に行くのはもったいない」
 可愛らしい二重瞼がつづけ様に二三度またたいた。結んだ口元をちょろちょろと雨竜《あまりょう》の影が渡る。鷺草《さぎそう》とも菫《すみれ》とも片づかぬ花は依然として春を乏《とも》しく咲いている。

        十四

 電車が赤い札を卸《おろ》して、ぶうと鳴って来る。入れ代って後《うしろ》から町内の風を鉄軌《レール》の上に追い捲《ま》くって去る。按摩《あんま》が隙《すき》を見計って恐る恐る向側《むこうがわ》へ渡る。茶屋の小僧が臼《うす》を挽《ひ》きながら笑う。旗振《はたふり》の着るヘル地の織目は、埃《ほこり》がいっぱい溜って、黄色にぼけている。古本屋から洋服が出て来る。鳥打帽が寄席《よせ》の前に立っている。今晩の語り物が塗板に
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